ボサノバのドキュメンタリー映画『This is Bossa Nova』を、やっと観てきました。
結論から言うと、想像以上に素晴らしかったです。
こんなにきちんとボサノバの神髄を表現した映像が、今まであったでしょうか??
もう絶版になってしまったルイ・カストロ著「ボサノバの歴史」を、忠実に映像にしてくれた...という感じです。
どこを取っても納得の行く出来で、ボサノバがさらに好きになりました。
ボサノバ・コンサートが始めて開かれた場所、ナラの自宅のボサノバ・サロン、メネスカルとカルロス・リラがギター教室を開いていた場所...
こういうところだったんだ!と、今まで色々な書籍で知っていた文字の情報が、映像として始めて確認できました。
さまざまなアーティスト達のポートレートも、映画の中でたくさん出てきて、
「あぁ、これはこういう時の写真だったんだな」
と、その時の時代背景を一緒に確認することができるのは、嬉しいことでした。
そして、現在も活躍するブラジル人アーティストたちの演奏、数々の名演奏のシーン、キーマンのインタビュー等々、盛り沢山の内容で、あっという間の2時間です。
そして、何より映画館のスクリーンいっぱいに広がるリオの美しい風景!
懐かしさで胸がいっぱいになりました。
「リオの美しさが、ボサノバを作った...」
映画でもそんな言葉が出てきましたが、本当にその通りだと思います。
あの海と、太陽と、山々と、太陽の匂い、風と光がなければ、ボサノバは生まれなかったでしょう。
音楽的な見地からの分析も、興味深かったです。
ジョアンについては、いつもの通り本人からの証言が取れないので、廻りの人間からの「あぶり出し」で描かれていましたが(笑)、ジョアンのボサノバと、メネスカルとリラのボサノバの関係が、この映画ではきちんと説明されています。
また、ジョビンがクラリネットのジャズ・ミュージシャンと「Samba de uma nota so'(ワンノートサンバ)」を演奏するシーンで、ラストの部分のリズムが合わなくて、教えるという場面があるのですが、実はここ、私が生徒にこの曲を教えている時も、いつも生徒がリズムを取れない場所と同じだったのです。
シンコペーションの場所を誤るとラストが伴奏とメロ(ここではピアノとクラリネット。ギターと歌の場合も同じ)が合わなくなるのですが、リズムの取り方がジャズやポップスと、ボサノバ(ブラジル音楽)は違う、という典型的な例だと思いました。
全体的に大変満足な内容でしたが、正直言って、ちょっとマニア向けかも?とも思います。
あまりにも次々とたくさんの関係者の名前が出てくること、全編に渡り9割がポルトガル語で、馴染みがなければまったく聞き取れないし、予測も理解もできないこと、見慣れていないとブラジル人のアーティストの顔の区別もおそらくつかないであろうこと...などから言って、「ボサノバって何だろう?」という人が、1度見て「わかった!」と思えるような入門者向け映画ではないということです。でも、その”しっかりした専門的な作り”が良いのですけどね。
その証拠に(というと大袈裟ですが...)、先に観に行った方々に感想を聞いていた時に、
「全部はわからなかったから、もう1度観たい」
という人が多かったこと、そして
「ジョアンは出ていなかった」「アストラッドは出ていなかった」
「シナトラとジョアンが共演しているシーンがあった」
などと、実際とは違うことを記憶している人がけっこう居たこと、
(ジョアンもアストラッドの映像もありましたし、シナトラと共演していたのはジョビンです)
映画館でも、後半には夢の中...の人々がわりと居たこと...などが挙げられます(笑)。
映画館の受付に、ボサノバ関連の書籍も売っていましたので、この機会にぜひ。
本を読んでから観ると、尚一層、良さがわかると思います。
しかし、何はともあれ、ボサノバ・ファンにはぜひ観て欲しい映画です。
あれこれとボサノバについて私がここに書く必要はもうありません!
そしてDVD化を強く望みます。
◆『This is Bossa Nova』
渋谷Q-AXシネマにて9/7まで4回/日上映中。
9/8〜は上映回数変更 または 上映終了の可能性あり。
http://www.q-ax.com/