Dindi
ジョビンのサンバ・カンサゥンに、「Dindi」という曲があります。
これは、シルビア・テーリスに捧げて創ったと言われていて、
彼らは不倫関係にあったとか、なかったとか、色々な噂もあったりします。
まぁ、それはさておき、私の大好きな曲の1つです。
さて今回、この曲を全部、ちゃんとした日本語訳にしようとしたら、どうも納得のいかない箇所が...
どこかの訳が間違っているのかなぁと思い、ポルトガル語の先生に尋ねてみると、
意外にも、間違っていたのは「合っている」と疑わなかったフレーズ
”Voce nao existe”だったことがわかりました。
これは、直訳すると「あなたは存在しない」となるので、
私は「君はもういない」と訳していたのですが、
先生は、ブラジルでは「違う意味で使う」というのです。
彼女が説明してくれた例は、こんなものでした。
...例えば、小学生の子供がいる夫婦がいて、共働きをしたいのだけど、
子供を預ける場所が見つからない。
すると隣の人が、
「お母さんの会社が終わるまで、うちで面倒を見てあげるから、
学校が終わったらうちへおいで」と言ってくれる。
でも、毎日では申し訳ないので、時々頼もうかと思ったら、
「そんなこと気にしなくていいから、毎日でも来て構わないから、どうぞどうぞ」
と言ってくれる。そういう時、その人のことを
「Voce nao existe!」と言う、と。
ふ〜ん、なるほど、なるほど。
これって、日本語でも同じ様な表現をしますよね。
「そんな人、いないよ!」
「あんな良い人はいない」とか、「そんな人はいない」とか、
日本語では、”人”を形容する言葉が入ってしまうけれど、
ポルトガル語ではそれが「Voce=あなた」だけで表わされているのでした。
国は違っても、言葉の表現の仕方はとても似ているのだなぁと、ちょっと感動してしまいました。
基本的には「なんて良い人なの!」「信じられない!」という究極の褒め言葉ですが、ネガティブな意味でも使うことがあるそうです。
それも、日本語と同じですね。
たぶん、日常生活の中でこのフレーズを聞いたとしたら、前後の成りゆきで、そのニュアンスがわかったでしょう。
でも恋歌の場合、「あなたはもういない」という解釈が入ることも、過去の思い出にすがる歌も決して珍しくないため、てっきりその手の歌かと早合点してしまいました。
ということで、ここは
「君のような人は他にいないんだ」
という意味だったのです。そうすれば、全体の内容がクリアになります。
私は今回、この部分を「かけがえのない人」と訳しました。
ちなみに、「Dinidi」には、英語の歌詞もあります。
Ray Gilbertoが、原詩とほとんどが一致するような見事な英語作詞をしていて、ジョビンも、アルバム『Terra Brasilis』では英語で歌っています。
ジョビンは生前、英語歌詞をアメリカ人に任せきりにしてしまうと、原詩の内容を無視したブラジルのイメージ...海岸、海、女性、椰子の木、サンバ、コパカバーナ...などのイメージ歌詞にされてしまうこを、とても嫌がっていたようです。
そのため、英語歌詞をつける際には、原詩の内容を損なわないようにということを最優先に、念入りなチェックをしていたとかで、この曲もその努力の賜物といえるでしょう。
英語では「Voce nao existe」の部分は違う表現をしていますが、それもとても素敵です。
下記に、ポルトガル語歌詞と日本語訳、英語歌詞と日本語訳を載せましたので、比べてみてください(^^)。
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【Dindi】
muica: Antonio Carlos Jobim
Letra: Aloysio de Oliveira
Ceu, tao grande e' o ceu
E bando de nuvens que passam ligeiras
Pra onde elas vao
Ah, eu nao sei, nao sei
E o vento que fala nas folhas
Contando as historias que sao de ninguem
Mas que sao minhas
E de voce tambem
Ai, Dindi
Se soubesses o bem que eu te quero
O mundo seria dindi, tudo, Dindi, lindo, Dindi
Ah, Dindi
Se um dia voce for embora me leva contigo, Dindi
Fica, Dindi, olha, Dindi
E as aguas deste rio onde vao
eu nao sei
A minha vida inteira, esperei, esperei
Por voce, Dindi
Que e' a coisa mais linda que existe,
Voce nao existe, dindi,
Olha, Dindi, Adivinha, Dindi,
Deixa, Dindi, que eu te adore, Dindi...
【ジンジ】
作曲:アントニオ・カルロス・ジョビン
作詞:アロイージオ・ヂ・オリベイラ
訳:柳沢暁子
(*下記訳詞の無断転用、掲載はご遠慮下さい*)
空よ、遥かな空よ
足早に流れる雲の群れ
どこへ行くのか 私は知らない
とりとめのない話を 葉に囁く風
それは 僕達の恋物語
あぁ ジンジ もし君が
僕の気持ちをわかってくれたなら
もう何もいらない
あぁ ジンジ もしいつの日か
君が行ってしまうなら
僕も一緒に連れていって
ねぇ、ジンジ ここに居て
この川の水がどこへ流れていくのか
僕は知らない
僕の人生のすべてを捧げて
君を待っていた
ジンジ、君はこの世で一番美しい
かけがえのない人
気づいて、ジンジ
君を愛させておくれ
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【Dindi】
music: Antonio Carlos Jobim
English words by Ray Gilberto
Sky, so vast is the sky
With faraway clouds just wandering by
Where do they go
Oh, I don't know, don't know
Wind that speaks to the leaves
Telling stories that no one believes
Stories of love
belog to you and me
Oh, Dindi
If I only had words I would say
All the beautiful things that I see
When you've with me
Oh my Dindi
Oh, Dindi
Like the song of the wind in the trees
That's how my heart is singing, Dindi
Happy, Dindi
When you've with me
I love you more each day
Yes I do, Yes I do
I'd let you go away
If you'd take me with you
Don't you know, Dindi
I'll be running and searching for you
Like a river that can't find the sea
That would be me
Without you, Dindi
【ジンジ】
作曲:アントニオ・カルロス・ジョビン
英語作詞:レイ・ジルベルト
訳:柳沢暁子
(*下記訳詞の無断転用、掲載はご遠慮下さい*)
空よ、遥かな空よ
あてもなく彷徨う 遠くの雲の群れ
どこへ行くのか 私は知らない
とりとめのない話を 葉に囁く風
それは 僕達の恋物語
あぁ ジンジ
もし君が僕と一緒にいてくれるなら
見るもの全てが美しく
もう何も言うことはない
あぁ ジンジ
木立を抜ける風の歌のように
僕の心も歌うんだ
君が一緒にいてくれるなら
僕は幸せだよ、ジンジ
君を愛している 昨日よりも、一昨日よりも
そうなんだ そうなんだ
もし 君が僕を一緒に連れていってくれるなら
君を何処へでも 行かせられるだろう
わかるかい、ジンジ
僕は 君を探して流れる
海に辿りつけない川のよう
それが 君のいない僕なんだ
ジンジ
コメント
勉強になりました。
今からジンジをじっくり聞いてみます。
名曲ですよね。(^^♪
投稿者: クリントン | 2007年07月07日 21:21
あらためて聴く「Dindi」は、いかがでしたでしょうか。
例のボサノバ映画は、8/4公開だそうです。
東京以外でも上映するようですので、HPをチェックしてみてください!
投稿者: 柳沢 | 2007年07月17日 22:37
はじめまして。
ジンジの歌詞の意味初めて知りました。素敵な歌詞ですね。
もし可能なら僕のブログにも載せたいのですが、構いませんか?
僕は英語よりも原語バージョンの方がいいと思いました。
おいしい水もそうですが、翻訳でのズレってどうしてもありますね。
では、失礼します。
投稿者: boyah | 2009年06月10日 11:31
はじめまして
ご連絡をありがとうございます。
貴ブログ掲載に関しては、
出典元がわかるよう
「当ブログからの転載であること」「対訳者名」を明記いただければ結構です。
どうぞよろしくお願いします。
投稿者: akiko | 2009年06月10日 11:47
お返事ありがとうございます。
出典元の明記等遵守した上で掲載させて頂きました。
戯言日記ではございますが、もしもご不快な点ございましたら、訂正あるいは削除致します。
私は英訳の歌詞よりも、ブラジル語(とよんで良いのかはしりませんが)の歌詞に、独特の物語的厚みを感じます。
普段こういった歌詞を目にする機会が少ないもので、心に触れたものはせめて書き留め、自分がいつでも見返したいなあ、という小さな願いで掲載を希望しました。
コメントを拝見して思ったのですが、「こんな人いないよ」っていう感覚は、日本語で言うと「ありがたい」みたいなものでしょうか。
慎み深さが、言葉に表れていて素敵だな、と思います。
では、長々と失礼しました。
投稿者: boyah | 2009年06月15日 13:46
わざわざご連絡ありがとうございます。
言葉の力、音楽の力は本当に素敵ですね!
投稿者: akiko | 2009年06月15日 17:13
こんにちは、この曲を歌うので歌詞を探してました。
素敵な訳詩と、バックにあるストーリー教えてくれてありがとうございます。
彼のコンサートはむかーーしNYのリンカンセンターで聞いたことがあります。
奥さんお嬢さんたちが一緒に歌って素敵でした。
こんな素敵なメロディーが出てくる人って前世なにをしていたのでしょうかね?
Zak / Los Angeles USA
投稿者: Zak | 2009年09月05日 04:53
Zakさん、コメントありがとうございます。
お役に立てて良かったです。
どうぞ素敵なステージになりますように。
投稿者: akiko | 2009年09月07日 21:52