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2013年08月19日

おいしい水

2013-08-19-2.jpg「おいしい水」は、アントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ジ・モライスの黄金コンビが作ったボサノバの名曲の1つです。
”ボサノバ”という言葉にピンと来ない人でも、この曲を知らない日本人はまずいないのでは?というほど有名な曲ですが、
さて、この「おいしい水」。どんな事を歌っている曲だと思いますか?

まずは、歌詞を見てみましょう(原曲は3番まであります)。

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【Água de beber】
música;Antonio Carlos Jobim
Letra;Vinícius de Moraes

Eu quis amar mas tive medo
E quis salvar meu coração
Mas o amor sabe um segredo
O medo pode matar o seu coração

Água de beber
Água de beber, camará
Água de beber
Água de beber, camará

Eu nunca fiz coisa tão certa
Entrei pra escola do perdão
A minha casa vive abertra
Abre todas as portas do coração

Água de beber
Água de beber, camará
Água de beber
Água de beber, camará

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【おいしい水】
作曲;アントニオ・カルロス・ジョビン
作詞;ヴィニシウス・ジ・モライス
訳;柳沢暁子

愛したかったけれど 怖かった
私の心を守りたかった
でも、この愛は秘密を知っている
不安は人の心を苦しめる

おいしい水
おいしい水、カマラ!

私はそんなには正しくなかったけれど
自分を許した
私の家はいつも開いている
心のドアは開いている

おいしい水
おいしい水、カマラ!

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いかがでしょう(^^
歌詞を読んでも、「おいしい水」が何を意味するか...??
実は、ちょっとわかりにくいですよね。

Água de beber は、直訳で「飲み水」を意味します。
(Água=水、de=前置詞(〜の)beber=飲む)
「おいしい水」とは最初に訳をした方の名訳で、これが「飲料水」じゃ、日本でこんなに有名になっていなかったかもしれません。
また、camará は掛け声のようなもの、宗教的な呪文のようなもの、と諸説ありまして、
ここでは特に意味はないと考えて良いと思います。


「水」が表現している事、それがこの曲の解釈のポイントです。
簡潔に言うと、
「生きていくためには水が必要。それと同じくらい、私には愛が必要」という歌なんです。

言われてみれば、なるほど〜!という感じですよね。
ブラジル人は皆、即答でこう説明してくれます。
しかしながら日本人はここまであからさまに「愛!愛!」とは言わないからか、
その意とするところを掴みかねる方が多いようです。
レッスンでは、受講生の方々にも自分なりの曲の解釈を発表してもらうのですが、
この曲の解釈ほど、多彩なバージョンが出てくるケースはありません。

  「お酒(おいしい水)に溺れた人の歌」
  「愛は麻薬のようだ、という歌」
  「何度も失恋したけど、その失敗を水に流そうという歌」→これなんかは実に日本人的な発想ですよね。

等々...本当に色々あります。
曲の解釈は人によって色々あって良いと思いますし、間違っているということはないのだけれど、
レッスンでは、「おおむねブラジルではこう解釈されている」というものを説明しています。

しかし意味を知ると、多くの方は
「そうなんだ、共感できる〜!」
とは行かず、困惑顔をされることが少なくありません。
残念ながら「曲は好きだけれど、歌詞の意味を表現するのは難しい、歌いにくいな〜」
と思われるようです(^^;

確かに「愛がなければ生きていけない」というのは、なんだか愛に飢えているようで、
男好き(もしくは女好き)の、恋愛体質の人の歌...というイメージがありますよね。
でも、歌手というのは「私はこの人と考え方が違うから、この曲は歌えません」という訳にはいきませんので、
そういう方には、”自分とは違う自分になれる”のが魅力なんですよ〜とお伝えして、歌ってもらいます。


こんな私も長い間、この曲を「恋多き女の歌」というイメージで歌っていました。
ブラジル人は情熱的だからな〜とか、
ヴィニシウスは9回も結婚した人だから、さすがは書く世界が違う!などと思ったりして、納得していたのです。


ところが、昨年出産して新生児の育児をしている時に、新たな発見がありました。
赤ちゃんというのは、ご承知の通り、
  お腹が空いた、オムツが気持ち悪い、眠い、寒い、暑い、抱っこして欲しい...
すべての感情を泣いて表現しますよね。
そして、ミルクをあげても、オムツを替えても、温度調節をしても、何をしても泣き止まない時でも、
抱っこするとピタッと泣きやむという事が多々あります。
でもその逆は...抱っこして欲しい時にミルクをあげても、他の事をしても泣き止みません。
赤ちゃんは抱っこしてもらえるなら、自分の不快感さえも、しばし我慢できるのです。

  授乳の時間と同じくらい、抱っこや語りかけの時間が必要なんだな...
  これはまさに「Água de beber」の世界だな〜!!

と、実感したのでした。


その後、それを証明するショッキングな実験があったことを知りました。
13世紀のローマ皇帝;フレードリッヒ2世が、乳児を使っての人体実験を行ったことがあるのです。
そもそもは「人は自然には何語で話すのか」を確かめるための試みだったそうですが、
国内の乳児を集め、乳母に「あやさない、抱っこしない、話しかけない、笑いかけない」という条件で
授乳と排泄の世話だけをさせたところ、なんと全員が死んでしまった、というものです。
(一説には、抱っこや語りかけなどのスキンシップで分泌されるはずの成長ホルモンが分泌されず、
成長ホルモン分泌障害で死亡したと考えられています)

語りかけやスキンシップがまったく無い状態では、授乳と排泄の世話だけをしても、
人は生きていけないのですね。
それは「愛がなければ生きていけない」ということ。
もちろん、水(ミルク)がなくても、生きていけないけれど、
水と同じくらい愛が必要なのは、何も特別な恋愛好きな人に限ったことではなくて、
赤ちゃんも大人も、みんな同じ。
人間とは、そういうものだったのです。


それから私は、この曲を歌う時の心持ちが変わりました。
さすがはヴィニシウス、詩の世界が深く、広く、核心をついてるな〜と、ますます尊敬。
そしてジョビンのメロディは美しく、しかも歌い易く、覚え易い。
これらが世界的大ヒットの由縁なのでしょう。


さて、9月のワークショップの課題曲は、この「Água de beber」です。
みなさんも、ギター伴奏で実際に歌ってみませんか。
皆さんのご参加をお待ちしております(^^)/

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講座名『ボサノバ・ ワークショップ』
 〜原語で歌うボサノバ・スタンダード〜(女性限定講座です)
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【よみうりカルチャー自由が丘】〜自由が丘駅南口より徒歩2分
 TEL(03)3723-7100
 http://www.ync-jiyugaoka.ne.jp/
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日:2013年9月8日(日)
時間:11:00〜12:30
課題曲: 「おいしい水」(原題「Água de beber」)
受講料:●3,885円(会員)、4,200円(一般) ●その他 教材費300円
お問い合わせ、お申込みは 9/5(木)までに
「よみうりカルチャー自由が丘」TEL(03)3723-7100 までどうぞ。



2013-08-19-3.jpg
[photo data](表題の1枚目)
Olympus E-410 ZUIKO DIGITAL25mm F2.8
(ISO400 F5.0 1/40 -0.7ev 25mm)
息子の1歳の誕生日プレゼントは、KAWAIのミニピアノにしました。
オモチャながら、なかなか本格的なもの。
鉄琴のような、綺麗な生の音がするんですよ。
小さなピアニストは、こんな風に弾いて(叩いて)遊んでいます(^^

2013年08月07日

1歳

2013-08-04-1.jpg今月で息子が1歳になりました。
実際に子育てをしてみて、「想像」と「現実」の大きな違いを感じています。

まず一番驚いたのは、地域の子育て支援の充実さです。
保育園の子育てサロン、園庭開放、プール開放、夏祭り、クリスマスなどの季節イベント、ブックカフェ、各種子育てプログラムの開催、
子育て支援センターや児童館での遊びスペースの開放、
保健センターでの育児相談、保健相談、健康診断、歯科相談、離乳食講習会、歯磨き指導教室、
図書館での絵本読み聞かせ会やイベントetc...もう挙げだしたらキリがないほど、様々な催しや相談窓口がたくさんあるのです。
その気になれば、毎日どこかに参加できるくらい!
これら、すべて無料です。

そして子供の医療費が無料なのは知っていましたが、薬代まで無料なんですね。
使用済み紙オムツ用ゴミ袋も無料、全部じゃないけど予防接種も無料だったり補助が出ます。
定期健診も無料です。
そしてさらに毎月、児童手当が支給されます。

こんなに社会福祉支援があるなんて、今までまーったく知りませんでした。
すべて税金によるものなので、厳密には無料ではないのでしょうけど、
いやいや、国もけっこう色々とやっているじゃないの、と感心してしまいました。
巷で聞く「子育て家庭に政策は厳しい」なんて、そうでもないじゃない!と思ったのです。


そして、子供を連れて外を歩いていると、老若男女を問わず、色々な人が声を掛けてくれます。
 「かわいいわね〜」「何ヶ月?」
など、特に子育ての終わったご年配のおばさまたちは、その90%超が話しかけてきてくれます。
きっと、自分のお子さんの小さかった頃を思い出しているのでしょうね。
「かわいいね〜」という言葉は、「一般的に赤ちゃんはかわいい」という大きな意味と、
「そうそう、うちの子もこんなにかわいい時があったのよね〜」という、
自分の中の思い出に触れた”懐かしさ”という両方を表しているのだなと感じます。
中には自分のお孫さんの話を始める方もいて、みなさん本当に嬉しそうなので、思わずしばし一緒にお話してしまいます。
私も年を取ったら、きっと同じように話しかけてしまいそうです(笑


幼児にも、乳児は人気です。
意外にも「赤ちゃんだ〜!」と駆け寄ってベビーカーを覗き込むのは100%男の子。
女の子はほとんど寄って来ません。
来たとしても、ベビーカーについているオモチャや息子の洋服を「これ、かわいいね」などと私の方に話しかけてきます。
これは予想外な反応でした。 
”女の子の方が子供好き”というイメージがありますが、そうでもないんですね。恥ずかしかったりするのかな?
男の子の方が単純に好奇心に忠実なだけかもしれませんね(^^

あと、初老の男性はなぜか言葉掛けはせず、息子をじーっと見ながら
喉の奥や舌を「コッ、コッ」「トュ、トュ」と鳴らしたりして反応を見る...という人が断然多いです。
何て言っていいのかわからないけど構いたい!という感じなんでしょうか。
声掛けは断然、おばさまたちの方が流暢です。
たとえ息子が何も言わなくても、何も反応しなくても、
「ごきげんね〜、お散歩なの、いいわね〜、今日は暑いわね〜、ママと一緒で楽しいね〜...」
こんな調子でエンドレスに続きます。
息子が途中で「あー」なんて声を出そうものなら、
「あら!お返事してくれたの、そ〜う、おりこうさんね〜、おばさん嬉しいわ〜...」となります。
もうこれは、技と呼んでも良いかも。見習っています(^^


ちなみにウチの子の場合、髪がフサフサで色白なため、初対面の方には必ず
「髪フサフサね」「色白さんね」「女の子?」
の3つを言われていました(^^;
今は「明らかに男の子」な格好をさせているのもあって、「女の子?」は言われなくなりましたが、
人って本当に同じ事を言うのだな〜と、そっちの方にも感動したくらいです。


私が近所に外出する時間帯は、たいてい日中の昼間なので、
同じような赤ちゃん連れの母親や、ご老人、犬連れ、介護中の方などが多いこともあり、
道も譲り合って、いたわりあっているような雰囲気で、嫌な思いをしたことは、まったくありません。
たとえ他の時間だったとしても、
レストラン、スーパー、駅、電車、バス、タクシー等でも大変親切にしていただいていて、
みんなが子供に温かいまなざしを向けてくれています。
これもまた巷で聞く「子連れに世間は冷たい」という印象も、一度も受けた事がありません。


私はもともと「大の子供好き♪」という訳ではなかったので、
「子供が嫌い」という人の気持ちもよくわかるつもりです。
しかし、おおむね世の中は子供連れに優しいのだな〜と、ヒシヒシと感じています。
本当にありがたいことです。

そして今は、ショッピングセンターやデパートなども、
赤ちゃん休憩室や遊びスペースなど、サービスがとても充実してるんですね。
高速道路だって、サービスエリアに立派な授乳室があるところも増えてきました。


そんなこんなで、
「子供は可愛いだろうけど、大変なんだろうなぁ」
と、かなりの覚悟を持って始めた子育て生活ですが、

   いやいや、そうでもないよ? みんな優しいよ? 毎日、楽しいよ? 

と、なんだか拍子抜けする感じなのです(^^;
今まで色々噂に聞いて想像していた;
「子育ては大変なのに、世間も社会福祉システムも厳しくて、孤軍奮闘」
という勝手なイメージは、見事に良い方向に覆されたのでした(^^


しかしながら支援制度も地域によって差があるし、
人によってはこれで充分とは言えないものもあるだろうし、私も利用しているものは限られています。
それでも、「ある」と「ない」では大違い。
児童福祉法という法律でも、しっかり子供を守っている日本というのは
まんざらでもないな〜なんて思ってしまう今日この頃です。


息子はまだ1歳。大変なのはこれからなのかもしれませんね。
小さな体に漲る強い魂のエネルギーと、細胞分裂の音が聴こえてきそうなくらいの元気を分けてもらいながら、
私も子供と一緒に、日々成長中です。

今まで支えてくれたみんなにありがとう!
そしてこれからもどうぞよろしく。


[photo data]
Olympus E-410 ZUIKO DIGITAL25mm F2.8
(ISO400 F4.0 1/60 +1.0ev 25mm)
みんなで食べられるように、ホットケーキでバースデーケーキを作りました。
子供がお昼寝中に、制作から撮影まで一気に決行! 無事、間に合いました。